のんちゃんとせみ

ぼくはせみだ。

空を気持ち良く飛んでいたけど

空だと思った所は人間が住んでいる窓だった。

ガラスに空が映り込んでいたから

分からなかったよ。

窓にぶつかって

仰向けに倒れてしまった。

さっきから起き上がろうとしているけれど

ぶつかった時の痛みで起き上がれない。

ぼくの眼は顔の後ろについているから

もう大好きな空を眺める事も出来ない…。

 

 

 

のんちゃんはベランダでせみさんを見つけた。

せみさんは仰向けで息をしていなかった。

 

『あたしがもう少し早く見つけて

お空に逃がしてあげていたら

もっと生きられたのに・・・。』

 

のんちゃんはせみさんが息をしていなかったのは

自分のせいだと思った。

 

コンクリートの上ではかわいそう。

土のある所にお墓を作ってあげよう。

 

のんちゃんはマンションを下りて行った。

そしてマンションの横の小さな公園の片隅に

せみさんを埋めた。

 

『ここなら寂しくないでしょ。』

と、のんちゃんはつぶやいた。

 

やがてせみさんの体は土に還り

あるのは魂だけとなった。

 

ある日マンションに暮らす小さな男の子が

公園にやってきた。

 

公園にあるお馬さんにまたがって

ゆらゆら体をゆらして遊び始めた。

 

せみさんは嬉しかった。

(ぼくは一人じゃないんだね・・・。)

 

次の日は女の子が遊びに来た。

ブランコをこいでいた。

 

せみさんは嬉しかった。

(ぼくは毎日楽しそうな子供たちの声を

聞くことが出来る。)

 

せみさんはそのまましばらくの間

毎日公園で

子供たちと一緒に過ごした。

 

そして49日目に

空の彼方から迎えに来た天使さんと一緒に

七色の橋を渡って

天へと召されていきました。